注文住宅といえば、家族の数だけ物語があり、家族の数だけ家のカタチもあります。さまざまな事例を参考にして、自分らしい家を建てられればと願うのはもっともなことです。
家をつくる楽しみのひとつは、間取りを考えたりインテリアコーディネートに悩んだりしている時にあります。一方資金の心配も、何となく心の片隅にあります。理想を追いかければ夢ばかりが広がり、無理な計画で壁にぶつかる可能性もあります。たとえ小さい家から始まっても、長い計画が見えていれば、将来への道が途絶えることはありません。
しかし、たとえば資金のメドを立てる前に間取りを検討しても、その計画は絵空事に終わるかもしれません。間取りのイメージも描かないままに土地を購入しても、希望は叶えられないかもしれません。なかなか経験することがない住まいづくりを失敗に終わらせないためにも、インターネットや雑誌などで情報を集め事例を見て研究をする前に失敗しない家づくりのプロセスをイメージしておきましょう。
転居にしても建て替えにしても、新しい家を求めることには、最初に動機があって始まります。家族の中心である夫婦の、どちらかが考えつくことです。その動機はまさに原点です。計画を進める中でも、迷いが生じたり諦めたりしそうな時には、解決策は必ずその原点にあるものです。
その動機も、大きくまとめると3つあります。①家族のため、②自分のため、③お金のためです。家族のために、とくに子育てを考えて、家を求める人は大勢います。子どものことでも、家族意識を高めるためとか、学習の環境を整えてあげたいとかさまざまです。また同じ家族でも、ご両親への恩返しとしてよい環境を提供したいと考える人もいますし、切実に親を引き取るために考える人もいます。家が家族の城である以上、家族のためにと考えるのは動機のひとつです。
また自分へのご褒美として考える人もいます。また、家を建ててローンを組むことで目標を明確にしようとする人もいます。知人たちがみんな家を建て始めたからと考える人もいます。自分のためにという気持ちもなければ、なかなか面倒な住まいづくりを進めることはできないかもしれません。
そしてお金のため。じつは統計上は、この動機がいちばん多いのです。お金のことといっても、宝クジが当たったからとか、今の金利がいちばん安いからという話ではありません。家賃を払って賃貸住宅に住んでいることが、もったいないと思うことがはじまりです。考えてみれば家主の住宅資本を築くために、懸命に働いて家賃を払って協力しているようなものです。いずれ転居すれば、家賃はすべて自分の資産になることはありません。確かに30年以上も家賃を払い続けていれば、資産にもならない家を買っているのと同じくらいの支払いをすることにもなります。
こうした動機をはじまりとして、住まいづくりを判断した後に、失敗しない住まいづくりを進めるためには、大事なプロセスがあるのです。
■おうちのはなし 087
住まいづくりのすすめ方―失敗しない住まいづくりのプロセス―
一般社団法人 住まい文化研究会 石川 新治